帯付 何人にも悪意を抱かず: エイブラハム・リンカン伝 スティーブン・B・オーツ 髙島敦子  リンカーン 大統領

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「奴隷解放の父」「史上最高の大統領」は何を信じ、何に悩んだか。
人物の内部に深く沈潜して描かれる英雄の実像と歴史の舞台裏。

第16代合衆国大統領リンカンの名と、彼の発した「人民の、人民による、人民のための政治」という言葉はつとに有名です。しかし彼がどんな人物で、何を信じ、何に苦悩したか、「黒人」の存在をどう考えていたか、また国を根幹から揺るがす危機(内戦)にどう向き合ったかについては、あまり詳しくは知られていないかもしれません。
本書は米国を代表する歴史学者が、人物の内部に深く沈潜し(ある時は一種の「憑依」すらしつつ)、過ちや弱点も含めてその実像を再現しようと試みたものです。徹底的な史料読解と調査によって、世界で最も名高い英雄は脱神話化され、「人間リンカン」がわたしたちの目前にたちあらわれます。原書は1977年に刊行されたものですが、90年代に普及版が刊行され、今なお本国で愛読され続けています。
表題の「何人にも悪意を抱かず」とは、リンカンが南北戦争のさなかに北軍の兵士に向かって語りかけ、また1864年の二期目の就任演説でもくりかえした言葉に拠っています。本書の随所に登場する演説や書簡からの引用によって、リンカンがこうした率直な言葉で敵味方なく友愛と連帯を呼びかけ続けていたことがわかります。そして65年4月9日、ついに四年にわたる内戦が事実上終結し、そのわずか6日後にリンカンは兇弾に斃れます。その後の再構築【リコンストラクション】の過程で、米国は「分離すれども平等」という苦しい法原理で黒人差別の問題に蓋をします。20世紀中盤の熾烈な闘争をへてようやく公民権が成立しますが、周知の通り同国はいまだ構造的・直接的な「有色人種差別」を根絶しえずにいます。
米国に限らず、差異を恣意的に序列化して支配・統治の道具とする愚行は文明の宿痾であり、苦難をひきうけるのはつねに人民です。本書を通じてリンカンが「人民(people)」という言葉にこめた思いを、読者の方々と広く共有できればと願います。(編集部)

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